はじめに

 

一人のメキシコ人にとって、日本は驚くべき国である。

日本には多くの神秘がある。
と言うより、日本人自身が(メキシコ人は日本人を非常に尊敬し、賞賛している)一つの神秘である。
それは、いつどんな反応や行動を起こすかは決してわからないが、いざという時に示す底力の様なものを持っているからである。
しかも同時に、同じ行動をいっせいに起こす。

 

また日本の伝統は、歴史の中に見失われるほど古く、先祖の霊を敬うという風習を持っている。
それは死後にもこの世の生活とは異なるもう一つの世界が存在する事を感じているからだ。

 

その上、日本人は本来、向学心と探究心を備え持ち、真理を求め、宇宙の謎を探究するという事を、私自身見てきた。
更に日本人には優れた才能がある。
それは習った事を即実用化し、その有効性を確認するという事だ。

多くの西洋人に見られる様に、頭の中だけに何年間も、時には一生の間、理論(そのうちの多くは現実的な機能に乏しい)を詰め込んだままにしておくのではない。
すなわち日本人は、何かを習得すればすぐにそれを現実に適用する心の準備が出来ているのだ。

 

この美しい国に住んで約一年経った一九八二年の末、私は精神世界に興味を持つ多くの若い読者をつかむ「ムー」という雑誌に、アストラル・プロジェクション(幽体離脱)の体験とテクニック、及び夢の機能と意味について発表した。

 

この記事は、その実用性と有効性によって、多大の興味と反響を引き起こした。
なぜなら、アストラル・トリップとは、まだ生きている私達が「あの世」でのできごとを体験的に識る、一つの方法だからである。

 

近い将来、死後の世界で起こる多くの出来事は、神秘でも謎でもなくなるだろう。
そして情報不足や物的確証不在ゆえに懐疑的になっている多くの人々も、それを確認する機会を持つに違いない。

 

というのは、日本ではエレクトロニクスの開発が進み、サーモグラフィや赤外線写真、コンピュータ、マイクロウェーブ、レーザー光線などの最新科学技術を通してダイレクトに、ヴィジュアルに(直接、視覚を通して)これらの平衡する異次元とのコミュニケーションが成立する日が近いのは、明らかだからである。

その日がいつきても不思議でないと言えるほど、日本の最新科学は進んでいる。
今から私たちは、全世界を揺るがすほどの、その強烈なショックを受け止める心の準備をしておくのが賢明である。
読者の皆さんにとって、本書が未来の科学的大発見に際しての準備として、最も有益なものになると私は確信している。

しかも、私たちが誰一人として死を免れることができないのは、厳然とした事実である。
本書によって、前もって死後の世界について知ることができるというのは、それらの平行する異次元に生活を展開してゆく上においても、貴重な情報であるのは確かだ。



ところで私の生まれた国メキシコは、経済的にはそれほど豊かだとは言えないが、ピラミッドや天文学などを残したアステカやマヤの時代から、魔術や自然医術を脈々と受け継ぎ、死後の世界や肉眼では見えないが確かに存在する他の次元を信じ、それらがごく自然に日常生活に溶け込んだ精神的な国である。

 

物質的な富以外の「何か」を探求させる、内的な力を感じて生きている。
だからこそ、日本人の心の中にある同じ力――表面的な人生だけでなく、「何か」を求めずにはいられないその気持ちを、メキシコ人である私は感じ取る事ができる。

 

メキシコ原住民の多くの部族では、ナーワリズムを実践している。
ナーワリズムとは、精神のみならず肉体そのものも一緒に、あっという間に遠くへ移転したり、鷲や虎に変身したりする事のできる術の事である。
また彼らは農作物のための雨乞いの儀式や、超自然的な治療法なども日々実践している。


表面、超近代的な生活を送る様に見えながらも、多くの日本人の心の中には、生と死の神秘を知りたい、あるいはおのれの存在の意義を発見したいと希求する種子が潜在しているのを私は観察してきた。

 

芽を出すために少しの水が注がれるのを待ち望んでいる種子がある。
わずかの水でその種子は強く大きく育ち、肉体と精神の調和という何ものにもかえがたい素晴らしい果実を実らせ、幸福な人生を生きる事が可能となる。
金銭で手に入れる事の出来ない内的な果実、永遠の価値は、心の中にその種子が生きているうちに発芽させなければならない。

 

 

人類が何世紀にも渡って受け継いできた知識は、あまりにも広大で多様化している。
しかし現代において、それらを簡潔に総括、体系化し、その実用的用途を私に教えたのは、恩師
サマエル・アウン・ベオールであることを、ここに記しておきたい。

一九七六年、メキシコシティで、私は彼に出会った。
既に七十冊あまりの著書を出版していた彼は、執筆活動と平行して、精力的な講演活動を行っていた。
そこには、私が求めていたことのすべてが語られていたのだ。
私自身の長い探求の末の「ノーシス
GNOSIS=直感的認識)」との出会いだった。
それは、すべての物事の判断基準となる、普遍的知識(ユニバーサル・ノウリッジ)である。

 

十一年前にメキシコで知り合ってから、私の伴侶である阿部美知子が、同国人である
日本の人たちにその知識を伝えたいと希望したことが動機となって、私たちは海を渡って日本に来た。
そして、彼女の内助を得て、いくつかの雑誌への執筆以外に、ノーシスの講座をもってきた。

 

この講座を通して、多くの日本人の精神的渇望を身近に感じ、人間の心理や死後の世界の研究調査を更に深め、体験したが、本書はそれらの多くの体験や講演の内容をまとめたものである。
録音テープのおこしは、講座に参加した多くの人々の協力によるものであり、それを
N両氏が、より多くの日本の皆さんに読んで頂く為に整理し、一冊の本としてまとめて下さった。

 

私は、今日、この東洋の国に古今東西のすべての科学が結集し、最も古いものと最も新しいものが浸透し合い、更には日本の神秘と普遍的知識のパワーが結びついていく様を、この目で観察した。

 

日本は、人類が犯してきた多くの誤りを肥料として、新しい文化(カルチャー)を創造し、育てる大きな可能性を持った豊かな土地である。
日本民族は、創造的(クリエイティブ)で深く繊細な感性を持ち、表面的な形のみでなく、良い種子の価値を認めることを知っている。
だからこそ、近い将来、その永遠的価値のあくなき探究に勝利をおさめ、その恩恵を世界中の人々と分かち合うであろうことを、私は信じて疑わないのである。


一九八四年四月二十七日

ミゲル・ネリ

 

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