相傳録別巻出づ  神仙卜歩傳を講傳

 

もと此の神仙卜歩(ボクホ)は
先師が神仙真録及び神仙感想編に説かれたる所伝にして
夙に道士会創々の頃に之を出すべきのところ、思う由ありて久しく之を伏せ来たれり。

そは斎主の体験に徴して、
其法の余りにも容易なるが為に修者其の霊感に慢じて
岐道に外れんことを恐れたると、一応道統上の神祇敬拝の薫習を経たる後に於て
之を伝ふるが結果的に幾段階の飛躍的成果を得べしと深慮せるが故なり。

すなわち神仙道道士会開闢以来すでに十数星霜を経、此間上木の刊行物に於て、
或は講伝書に於て、道士深甚の道念を涵養し、
且つ道統上の神祇師仙への敬拝を怠らず、霊性薫習の成果は今や此伝を伝ふるも大過なかるべく、
俗法と仙伝玄法との相似て而も非なるを不説のうちに感悟し得べく、
また此の卜歩伝によりて魂府の身形を卜し、
忽ち脱魂を得て異次元界に遊行するとても霊魂の帰着を誤るが如きことあらざるべきを確信するに至れるが故なり。

○抑も斎主が若年の砌、始めて脱魂に成功したるは、
実に此の卜歩伝と同様の玄理に本づく感想法によりたるものにして、
後に水位先生の神仙真録及び神仙感想編を得るに及び、
其の偶然の一致に驚けり。使魂遊行爾来星霜を閲すること三十余年、いよいよ其伝の妙法なるに感ぜり。
而も従来感想法に妙ならざるの士に対し、
自らの霊的体験を通じて本伝を伝へんとして尚ほ伝へ得ざりし理由は概ね前述せるが如し。 

すなわち斎主は十一才より漢学塾に通ひ、学生時代学業よりも寧ろ道書研究に
没頭せるが、十六才の砌、仙書中より一法を択びて之を修し脱魂を得るに至り 屡々異次元界に遊行す。

至ること甚だ易きも、異境を出でゝ現界に帰着すること容易ならず、
闇夜暴風の中を逍遙するが如く、恐怖総身に迫ること屡々なりき。

即ち、之れ未だ学道未熟にして仙縁の薫習浅く、道術に通ずること尠かりしによる。
また其の入るところの異境は其の山嶽、渓谷、川流奇巌草木の形勢、
ほぼ現界の景勝と異なるところなしと雖も、
独り此境を逍遙すること一、二時に及ぶも嘗て異人仙真に遭遇することなく、
亦た仙家楼閣玉殿に見(マミ)ゆることなし。

ただ黙々深沈として異境の山中を跋渉するのみなり。
斯くの如きこと数十度、漸く遂に脱魂法に倦き、修法また日々懈怠に至りて止む。
是は之未だ霊性凝固ならず。
道術の造詣に浅く、固より真図真形図の類に未知なりし為め其の機縁に繋がらざりし故なり。

後に正真の道統に結ばれ、隠微の道術、玄深の霊符真形図の霊宝を受け、
知識漸く明るさを加ふるに及びて、此の卜歩伝による脱魂法を以てするに、
至るところの異境の山河形勢は是れ若年の頃の其れと異なるところなきに、
群落の仙家、高楼玉殿を望むこと真形図所見の如く、
遥かに異人仙客の来往交通を見るに至り、後に第四代道統を泰岳先生に受くるに及び
忝くも水位先師の御介添を以て畏くも
青真小童大君少名彦那神、太真東王父大国主神、太真西王母須勢理姫神等にも
謁見を得るに至りたる消息の一端は道誌第五四号山中独語に其片鱗を記し置けり。

茲に於て道統の所縁は固より、受図受伝の功徳の仮初ならざるに深く感銘せり。

水位先生の御手記に曰ふ
『魂の身を脱するは始めは夢の如く、真境に至らんとして中途にして体に帰る。
此の如くして月を累ね竟に真境に至ることを得。
其道或は橋梁有りて高きこと虹の如し。
或は大山有りて其峙つこと壁の如し。之を歩むに霊魂戦慄す。
(之を歩む霊魂は自ら霊魂たることを知らず。肉体を以て之を歩むが如し。』

此に於て之を現世に批ぶるに即ち現世にあらず、又夢ならざるを知る。
忽然として堕つれば則ち真境に至るを得。
是れ脱魂の始め也。此の如くして月を累ね、
真境に入るに、霊魂と肉体とを弁ぜず。微なる哉微なる哉。無極に入る。
神なる哉神なる哉、不測に至る。

是れ脱魂法の大略なり。其の漸く習熟するに至りては、
『或は北極に至らんひとを思へば、良久(シバラク)にして身心坐上に無きが如し。
此に於て我魂自ら脱出して北極に至ること只だ一歩なり。
又た良久にして其魂我身に帰るなり』と。

又曰く。
『先づ之に感ずることを知らぱ万物感通せざるは無し。
瞑目して千里を見、耳を掩うて千里を聞く、又自在也。

有生は則ち不正に復し、有形は則ち無形に復す。
見れども、見えず聞けども、聞えざるものは魂なり。

之を感想して万物の始を思ひ神明に感通するに至らば。
万始自ら明らかにして内観自得す』と。
之を感想し、之に感ずるとは如何。
卜歩伝によりて之を知るべし。
見れども見えず聞けども聞えざる無形の魂を有形に復し、
見れども見えず聞けども聞こえざる無形の異境に感通するの玄理を最も簡明に表現したるは
卜歩伝の卜の義なり。

ウラナイの義の卜にはあらず。先師の所謂る卜魂府之身形(魂府ノ身形ヲトス)の
卜なり、卜の字眼、即ち卜歩伝によりて徹せらるべし。

○感想の秘術は五百年に一たび出して好道の仙官至人に伝ふ。之を伝ふるに
 血をすゝりて盟ひ質を委ねて約を為し其要言を伝ふ。 (道蔵経)

○玄一感想の法は神中の秘訣にして此の法を知る者は其身を分かちて二人と為す。
 変化自在の術にして方術の太祖なり。 (三仙経)

○万法の大元は感想の道なり。此法を修得せる者は万術巳に畢る。(元々録)

○感想の術は神妙霊枢の秘法にして変化の太祖たり。 (水位先生)

○感想を保ち得るのは仙なり。之を失へば則ち凡なり。 (水位先生)

○内感想を知る者は精霊の己れに由るを知るなり。 (博玄録)

○感想の道に達する者は己の魂の霊妙を知るなり。 (水位先生)

○感想の法は神仙大いに秘する所にして淺心の人に洩らす者は必ず
 其の殃を受く。此法軽授すべからず。疑ふ者は又必ず殃を受く。 (水位先生)

     

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