アストラルの旅U

鏡の中の私

 

鏡は友だち

「鏡よ、鏡。私はどうして生まれてきたの?何をすればいいの?」

私は鏡に向かって、こう問いかけてみる。
鏡の中の私は、ちょっと困ったように、自信なげに笑っている。

私はよく、鏡の中の自分と話す。嬉しい時も、悲しい時も…。

だから鏡は、私の幼い頃の泣き顔も、よく知っている。

叱られて鏡の前で泣いていると、
「ホラホラ、もう泣くんじゃありません。メソメソしないで、今度はしっかりネ」と励まされる。
鏡はいつも、私と共にある。
そして、驚くほど正確に、私の内面を映し出す。

例えば、イライラしている時、鏡に向かってニッコリ笑ったとしても、ほんの一瞬――そう、本当にまばたきをする位の時間だけど、鏡の中の私は笑っていない。

トゲトゲしい自分が映り、「何をそんなにイライラしているの?バカみたい。自分のご馳走に毒を盛るようなことは止めなさい!」
といわれてしまう。

どうやら、鏡をごまかすことはできないようだ。

それは、他人を騙すことができても、神をだますことができないように、私達の考え、行動は、すべて神々に見られている。

神から見た私達の世界は、箱庭のようなものかもしれない。
などと思いながら、私は先日見たヴィジョンを思い起こしていた。

 

 

輝いているけれども、細い道

それは、一種独特の空間を作り出していた。
どうやら、ここには、時間も空間もないようだ。
何の音も聞こえない。町でもなく、周りに何もない。
ただ空間に、ポツリと私一人がいる。不思議な世界が広がっている。

私はもう一度、辺りを見回してみた。

すると、私の隣には、アヌービスが立っているではないか。
アヌービスは、
「あなたのやってきたことを見なさい。」と言い、次々にヴィジョンを見せてくれた。

それは、短いストーリーの映画を観るように、時代背景も、場所も登場人物も、それぞれ違っていた。
私にとって懐かしいものも、また、初めて見るものもあった。

こうして客観的に自分を見ると、今まで判らなかったことが、一瞬の内に理解できることがある。

私はここで、ふと考え込んでしまった。

私は今まで、一体何をしてきたのかしら?
本当に生きていたのかしら?
それにしても、何と多くの間違いをしてきたのだろう。
ああ、罪深いなど、ため息と一緒に、そんなことを考えた。

 

私は、隣のアヌービスをチラッと見た。
厳しそうだけど、やさしい目――。
アヌービスは、私の視線に気づくと、あるものを指し示した。

それは、白く細長く続く道だった。

平均台の幅ほどだろうか。先へ行くほど、細くなっていく。
アヌービスは、道を示したまま、黙っている。
どの位、沈黙が続いただろう。

「この道を歩きますか?」

こう、アヌービスが尋ねた。私は答えられなかった。

この道は、とても綺麗だけど、細すぎるわ、バランスを取って歩くのは、難しそう。
それに、歩き始めたら、両側から、手や足を引っ張られそうだし……。
でも、いつも前を見て行けば、歩けるかもしれない。

そんな、まとまりのない考えが、頭の中で堂々巡りするだけで、「ハイ」という返事ができなかった。

 

アヌービスは、私の心を見透かしたのか、

「あなたが今までのすべてを捨てて、道を歩く決心をすれば、必要なものは与えられるだろう。何も心配することはない。」

と、言葉を続けた。

それでも私には、「ハイ」と言う勇気はなく、ここでヴィジョンも終わってしまった。

 

 

何処(いずこ)へ

私はヴィジョンの余韻を辿りながら、考えた。

自分が上昇し、進歩していると思ったのは、錯覚なのではないか、実は、ヴィジョンが変わっただけで、同じ所をグルグル回っていたのに過ぎず、浜辺の波が寄せては返す中で、たった一人砂に立ち、無駄な時を過ごしてきたのではないだろうか。

どうやら私は、自分のエゴの作り出した幻に、振り回されていたようだ。
もしかしたら、これが「魔境」かもしれない。

光の前に、すべてのベールがはがされていく。
素晴らしいハーモニーと共に、自然は、こう語りかけてくる。

 

目覚めなさい――

もっと高く上昇するために

あなたの全霊をこめて

愛の詩をうたいなさい。

捨てなさい――

あなたのちっぽけな考えを

あなたはもう、すべてのものに

別れを告げなければならない

例えそれが、どんなに悲しく

辛いことのようであっても

前進しなさい――

道の向こうに

光り輝く世界が待っている

 

 

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